引越しの退去で敷金戻る?敷金返還に必要な掃除方法を詳しく解説

引越しで賃貸物件を退去するときに、どこまで掃除すればいいかで迷いますよね。隅々まできれいに掃除しても、退去した後にハウスクリーニングが入るなら無駄な作業のように思えますが、部屋が汚すぎて敷金が戻ってこなかったという人もいるようです。

部屋の状態で返ってくる敷金が変わるなら、真剣に掃除する気にもなりますが、いったいどこまで掃除すればいいのでしょう。ここでは、そんな引越しの退去時の掃除について、原状回復の基本的な考え方や、掃除と敷金の関係についてわかりやすく解説してきます。

引越しにおける原状回復の考え方

どの賃貸物件も退去するときに原状回復をする義務があります。「原状回復」ですので「入居したときの状態にまで回復させる必要がある」と思っている人がいて、退去時の掃除を徹底していますが、実はそこまでの回復は求められていません。

ポイント
退去時の原状回復で求められているのは、自分の故意や過失などによって発生した損傷を復旧することだけで、例えば経年劣化で壁紙の色が変色してきたような場合、これを原状回復させる必要はありません。

反対に下記のようなケースでは、原状回復義務が発生します。

  • 故意や過失による損傷
  • 通常の使用方法に反する使用による損傷
  • 手入れを怠ったことによる毀損
  • 故障や不具合を放置したことによる被害拡大

お風呂掃除を怠って浴室がカビだらけになっていたとしたら、それは「手入れを怠ったことによる毀損」として修復のための費用が請求されます。

以前は原状回復の明確な基準がなくトラブルになることが多々ありましたが、1998年に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表しており、さらには2020年には民法の改正によって、そのガイドラインの内容が民法に盛り込まれました。

さらに2004年に東京都が「賃貸住宅紛争防止条例」を施行し、それに合わせて「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を作成しています。引越しの掃除をどこまで行うかは、この2つのガイドラインを参考に判断します。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

どこまで掃除をすれば敷金は返ってくる?

きちんとお手入れをしつつ通常使用の範囲で使用していれば、原状回復費用を請求されることはありませんが、具体的にどのような状態まで掃除していればいいのか判断が難しいですよね。

そこでここでは、東京都のガイドラインを参考に、借主責任になる範囲と貸主なる範囲を明確にして、どこまでどのような掃除をすればいいのか場所ごとに詳しく説明していきます。

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壁・天井の原状回復

基本となる壁の掃除方法としては、雑巾で軽く水拭きと乾拭きをするだけでOKです。あとは借主責任になる範囲をできる範囲で修繕しておきましょう。

借主責任になる範囲(修繕・掃除が必要)

  • くぎ穴、ネジ穴
  • 落書き
  • 通常使用の範囲を超えた照明の設置跡

下地ボードの張り替えが必要になるような穴は、借主負担での修繕となります。壁に家具を取り付けるために大きな穴を開けた場合には、パテなどで埋めておきましょう。天井のコンセント以外に設置した照明の跡も同様に埋めておいてください。

また小さなお子さんが壁に落書きをしている場合には、中性洗剤などを使ってきちんと消しておきましょう。

貸主責任になる範囲(そのままでOK)

  • テレビや冷蔵庫裏の黒ずみ(電気ヤケ)
  • 壁紙の変色
  • 壁に貼ったポスターの跡
  • エアコンのネジ穴
  • 画鋲の跡

テレビや冷蔵庫の裏が電気ヤケで黒くなっていても、これは通常使用の範囲となっていますのでそのままにしておきましょう。経年劣化による壁紙の変色やポスター、絵画などの跡も掃除してきれいにする必要はありません。

通常のネジ穴は要修繕ですが、エアコンは必須設備ですのでこちらの取り付け穴は補修しなくても大丈夫です。ポスターやカレンダーなどを固定させるための画鋲跡も、通常使用の範囲ですのでそのままの状態で引き渡しましょう。

床の原状回復

床は掃除機をかけるかクイックルワイパーを使ってホコリを取り除き、雑巾で水拭きと乾拭きをして汚れを取り除きましょう。

借主責任になる範囲(修繕・掃除が必要)

  • イスやキャスターによるフローリングのすり傷
  • 引越作業で発生した傷
  • カーペットのシミやカビ
  • 家電による錆跡

原状回復費用を請求されることが多いのがフローリングの床です。日常生活でイスを引きずったり、イスのキャスターで傷つけたりすることがありますが、これはキズ消しシートやキズ消しクレヨンなどを使って目立たなくしておきましょう。引越作業で発生したすり傷も同様です。

カーペットがシミやカビで汚れている場合には、可能な限り取り除きましょう。ただし漂白作用のある洗浄剤を使うと色落ちして余計に目立つこともあります。できる範囲で汚れを落とす程度で構いません。家電による錆跡も消せる範囲内で取り除いておいてください。

貸主責任になる範囲(そのままでOK)

  • 畳の変色
  • フローリングのワックス
  • カーペットの家具設置跡(凹み等)

基本的には通常使用での変色や変形、劣化はそのままで構いません。フローリングにワックスを塗り直す必要はありませんし、家具を置いた箇所の凹みなどもそのままの状態で引き渡しましょう。

水回りの原状回復

水回りの掃除は中性洗剤とスポンジで汚れを落として、水で流しましょう。水回りがきれいになっていると引き渡しをするときの印象が良くなりますので、時間をかけてしっかりと掃除をしてください。

借主責任になる範囲(修繕・掃除が必要)

  • キッチン壁の油汚れ
  • 換気扇の油汚れ
  • コンロ設置場所の油汚れ
  • 水垢(浴室鏡のウロコ汚れ)
  • カビ
  • 便器の黄ばみと黒ずみ

油汚れと水垢、便器の汚れは日頃のお手入れをしていれば発生しないものですから、いずれもしっかりと取り除いておく必要があります。油汚れと便器の黒ずみは重曹やアルカリ性洗剤、水垢と便器の黄ばみはクエン酸や酸性洗剤を使えばきれいに落とせます。

カビもお手入れ不足によるものだと判断されますので、カビハイターなどを使って落とせる範囲内で除去しておいてください。ただし根が深い場合には通常の薬剤では落としきれないこともありますので、どうしても除去できない場合には諦めるか専門業者に掃除してもらいましょう。

貸主責任になる範囲(そのままでOK)

  • ユニットバスのくすみ
  • シンクのくすみ

水回りでも経年劣化によるくすみは、そのままにしておいて構いません。ただしきれいになっていると印象が良くなりますので、時間があるなら磨いてくすみを取り除いておきましょう。

引越しでどこまで掃除するべきかは契約次第

一般論としてどこまで掃除しておけばいいのかをお伝えしましたが、実際に敷金がどれくらい返ってくるかは個別のケースに違います。

完璧にきれいに仕上げても、契約書の特約に退去時のハウスクリーニング代は借主負担とすると記載されている場合には、ハウスクリーニング代が敷金から差し引かれてしまいます。

敷金ゼロの物件の場合には、敷金を払っていないためハウスクリーニング代を請求されることになります。そのような条件で部屋を借りた以上、これは仕方ありません。自分の契約書を確認して、特約が付いているようでしたら敷金が戻ってこないことも覚悟しておきましょう。

ただ管理会社によっては「ハウスクリーニングをするから掃除はしなくてもいいです」としてくれる場合があります。もし、特約ありで契約している場合には、管理会社に問い合わせをして、どこまで掃除しておけばいいか確認しておくのがおすすめです。

また「掃除はしなくてもいい」と言われても、ホコリだらけの部屋では印象がよくありません。掃除機をかけてホコリが落ちていない状態にし、できれば雑巾がけもするのがマナーです。負担にならない範囲で軽く掃除をしておきましょう。

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高額な請求をされたときの対処方法

ハウスクリーニング特約ありで契約している場合には、部屋の広さにもよりますが5万〜10万円程度の費用を請求されます。敷金が家賃2ヶ月分程度なら、預けてある敷金の範囲内に収まりますが、部屋の状況や管理会社の方針によって、数十万円の請求が発生することもあります。

この場合にはまず次の2つの対応をしてください。

  • 費用内訳を確認する
  • 管理会社の説明を受ける

高額請求の根拠となる費用の内訳を出してもらい、それを元に管理会社の説明を受けましょう。それで納得できない場合には、下記の窓口に相談してください。

いずれも第3者の立場で判断してくれて、解決するためのアドバイスを受けることができます。ただし、管理会社との交渉まではしてもらえませんので、上記3つの窓口でも解決しない場合には弁護士に相談してください。

弁護士費用が発生しますが、不動産トラブルの解決を得意としている弁護士ならアドバイスをしてくれるだけでなく、管理会社との交渉もしてもらえます。どうしても納得できないという場合には、信頼できる弁護士に相談してみましょう。

まとめ

2020年の民法改正により、通常損耗や経年変化による劣化は原状回復をする必要がないことが法律によって定められています。このため原状回復のルールが曖昧だった頃よりはトラブルになりにくく、敷金もきちんと返ってくるようになっています。

とはいえ、部屋に傷をつけた場合や日頃のお手入れ不足による劣化があり、部屋の損傷が激しい場合には数十万円の請求をされることもあります。またほとんどの部屋で特約が付いているので、部屋がキレイでもハウスクリーニング代は引かれてしまいます。

それらの費用を最小限に抑えるために効果的なのは、やはりしっかりと掃除をしておくことです。ここでご紹介した借主責任で修繕しなくてはいけないところを中心に、できるだけきれいな状態に戻しての引き渡しを心掛けてください。